市議団ブログ

岡山市の「新アリーナ」なにが問題?
[ 12月23日 ]

 

 

岡山市は、経済界の要望に応じて、コンサートやスポーツ試合などを「観る」ための新アリーナをつくろうとしています。

2025年11月市議会で関連予算が賛成多数で可決され、事業が正式にスタートしました。

この関連予算に反対した日本共産党岡山市議団の田中のぞみ議員の討論が、反響を呼んでいます。

全文を掲載します。

ぜひご覧ください。シェアなど拡散大歓迎です。


日本共産党市議団の田中のぞみです。会派を代表して、本議会に上程されました64件の議案のうち11件について、委員長報告に反対の立場で討論します。

まず、新アリーナ建設についてです。

甲第177号令和7年度岡山市一般会計補正予算には、計画地の測量、地質調査費など合計で1億2,680万円の事業費と寄附金の基金積立2億5,000万円の予算が計上され、事実上の事業化決定となります。

新アリーナ建設については、これまで様々な議論がありました。

推進する方々は、市民の理解は進んでいないとしつつも、岡山のまちづくりに必要な施設、賑わい創出に無くてはならない、金額に表せないわくわく感や岡山への愛着の醸成、あってしかるべき、と繰り返されます。なんと上から目線、トップダウンの政策押しつけなのかとの声を聞きます。

経済界やスポーツ界などの一部で盛り上がり、あまりに市民不在の議論がなされ、突き進んでいると感じます。市長選で示されたように、これほど市民の意見が二分している、理解が進んでいないと認識していながら、建設の是非についてこれまで一度も広く市民の意見は聞いていません。先に事業化を決定し、さあ、みなさん理解してください、というのでは、これが健全な地方自治のあり方なのか、と思います。

財源となる国税や市税は、市民のみなさんの大切な税金です。どう使うのか、本来、市民の実態や要求を聞くべきです。

地方自治法第1条では、地方公共団体は「住民の福祉の増進を図ること」が基本と定められています。住民の福祉、幸せとは何か。誰もが健康で文化的な生活を送れるよう、医療、福祉、教育、ゴミ処理、消防といった最も身近な住民サービスを充実させることと位置づけられているわけです。

「アリーナより暮らし支援を」と求めるのは次元が違うと諭そうとするのは、話のすり替え、市民を見下しているとさえ感じます。なぜなら市民にとって、市のお財布は一つなわけだから、物価高騰の中で、子育てをしながら、介護をしながら、もしくは老いゆく自身の将来に不安を抱きながら、日々を乗り越えている人々にとって、あのきらびやかなコンサート主体の、営利施設をなぜ公立でつくらなければならないのか、という事が納得できないわけです。新アリーナの動画を見れば見るほど、その思いは強くなる。アリーナに行ったことがないから、見たことがないから、理解されないと決めつけるべきではありません。今盛り上がっているサッカースタジアムとは違い、誰がこれを求めているのかすら、分からない。

新アリーナをつくることで市の他の事業が後退しない、というのは当たり前のことです。しかし、当然、影響がないわけではありません。そもそも、今の市の福祉制度や暮らし支援が不十分だと思っている多くの市民にとって、今、優先するべき事は他にある、と言っていることもまた、当然だと思います。市民の切実で素朴な願いを、「違う事業だから比べるべきではない」と片付けるのは、失礼だと思います。年間3.4億円あれば当然、拡充できる事業はあり、救われる方はいるわけです。

この間、市の大型事業は、市庁舎、市民会館、市民病院など、ほとんどが老朽化施設の建替えか、需要予測に対応するためでした。事業目的ははっきりしています。全国のアリーナ建設ラッシュを見ても、公立の場合は、既存の県立体育館や市立体育館の建替えであることがほとんどです。

岡山市の新アリーナは、全く新規で、単体で公立施設として建設しようとすることに大きな特徴があります。そして、その運営権をまるごと民間に投げてしまう。今後、30年、50年後を思えば、不安しかありません。

以下、反対理由を5点述べます。

①まず、あまりに経済界いいなり、優遇する点です。

この新アリーナ構想は、市民からの要望というより経済団体からの要望で始まりました。2021年12月の公設民営でのアリーナ建設要望が出されてすぐ、市は、基礎調査を実施し5,000席規模81億円の案を出します。その直後に、機能充実の要望書が出されれば、市は基本計画を策定し5,000席145億円に拡大させます。さらに採算を取るためにと規模拡大を要望され、現在の最大1万席280億円に膨れ上がりました。これを経済界いいなりと言わずして何と言うのでしょうか。

寄附金集めにしても、50億円という額を設定したのは経済界ではなく市であり、それでも事業費のわずか18%です。これまでに内諾を得られた寄附のうち、単独で依頼したという件数は、市の47件に対して、経済界13件、プロスポーツチームに至っては0件です。

挙げ句には、寄附を集めたらその1割を手数料として税金でキックバックするとのこと。50億円の寄附を集めるのに5億円の手数料が別途発生するという計算になります。

どこまで優遇するのでしょう。「民にできることは民に」が市の常套文句ではなかったでしょうか。

②第二に、その事業目的が営利目的になりつつあることです。

もともとはトップリーグのレギュレーションを満たす施設がない、プロスポーツチームの市外転出を抑制するためとのことでした。全国的には、既存の体育館施設に、大型モニターや照明を設置し席数を増やし、VIPルームを追加する大規模改修で対応しているところもあります。たとえば県のシゲト-アリーナの可能性について、県と協議したのかと質問しても、していないとの答弁です。これでは市民は納得しません。市民利用の体育館が足りないなら、別の方法があります。

そもそも、2015年策定の岡山市スポ-ツ施設整備計画では、体育館の新設はしないと明記されていました。市の財産管理計画でも、市有施設の床面積を減らす大方針があります。自らの方針をもねじ曲げ、県との事前協議もないまま、突如進み出した事業なのです。

いまや、その整備目的は岡山の賑わい創出に変わり、利用料収益の9割以上をスポーツ観戦以外で稼ぐことが想定されています。まさに営利施設です。今後20年間の市の試算ではプロスポーツ観戦の平均動員数を2,000人と見積もっています。いずれのプロスポーツチームも年間の平均動員数が1,000人前後の現状からみても、1万席のアリーナはあまりに大き過ぎるのです。営利目的のコンサートアリーナは、公立でつくる必要はありません。

③第三に、採算制についてです。

地図で見ておわかりの通り、岡山ドームより小さな新アリーナです。ここに急傾斜の観客席が地上6階7階と、縦に大きなアリーナとなるでしょう。

メインアリーナの賃料は一日180万円。土間なので、設営に前日が必要なため2日間で360万円。コンサートは4日間貸し切りで1,400万円、プロスポーツは現在と同等の約200万円程度で試算していますが、年間の運営費経費4.3億円には届きません。市民割引など設定される余地はありません。

BT+コンセッション方式で、運営権はすべて民間に受け渡します。サブアリーナでさえ、市民利用が確保される確証はありません。利益を上げるために、犠牲になるのは公共性です。

高松、広島、神戸、姫路、吹田に大アリーナが次々オープンしています。ホテルや複合施設と一体的なアリーナ群です。競争が激化する中にあって、新アリーナに期待を寄せる市民団体、有識者でさえ、岡山の新アリーナは単体で採算を取るのは難しいと明言されました。

新アリーナ周辺地がどれほど賑わおうと、ここを会場と選ぶのはあくまでプロモーターです。岡山にはポテンシャルがあるといいながらも、会場や会場周辺、搬入口含め、使い勝手が良くなければ、興行のリピーターにはなりません。会場持ち回りのプロスポーツとは違います。市としてどんな打開策があるのかと質問しても、事業者まかせの答弁しか返ってきませんでした。公の施設なのに、市としての見通しがありませんでした。

全国で、完全な独立採算制が成り立っているのは今のところ唯一、沖縄アリーナだけです。沖縄アリーナの収益の半分は飲食などの自主事業です。プロバスケチーム「沖縄ゴールデンキングス」の本拠地で、関連会社がアリーナ運営も担っています。年間平均動員数は約8,000人と日本一。アリーナで飲食事業が成り立つのはプロスポーツ観戦の時であり、コンサートではないはずです。30あるスイートルームも年間契約は完売していると聞いています。沖縄アリーナは県民のバスケ人気に支えられているのです。

岡山の新アリーナが第2の沖縄アリーナになれる保障がどこにあるのでしょうか。

20年一括委託を考えているようですが、30年後40年後、市の大きな負の財産になる不安はぬぐえません。

④第四に、事業費の増大です。

現在の事業費は、高松、太田、沖縄、佐賀の事例を参考に平米単価で出しているだけであり、海吉の学校給食センターの費用が試算時から2倍に跳ね上がった際、繰り返し答弁されたのと同じく、積み上げて計算した事業費ではありません

さらに、物価高騰により、たとえば新市庁舎はこの3年間で47億円も物価高騰スライドで追加費用がかかり、287億円が328億円になっています。アリーナで言えば周辺の賑わい創出に、建設費以外に100億円をかけた都市もあるとのこと。この事業は、間違いなく400億円近くに膨れることが想定されます。今、市の財政に大きな影響がないと市は説明しますが、当てにならないと市民は肌感覚で気づいています。

また、岡山ドームとの間の市道を廃止することがいつの間にか決まっていました。昨年2,000万円もかけて1万人規模のアリーナへ拡大した追加調査では、その分厚い報告書の半分以上が、交通調査でした。その直後に、市の独断で真ん中の道を廃止し、奥の立体駐車場への経路を片方なくすと決めたことになります。北長瀬市営住宅側からのアクセスが突き当たりのようになり、大きな混乱が予想されます。民家も近接しており、近隣には流通センターがあります。あれほど公共交通利用を呼びかけているファジアーノ観戦ですら、周辺の混雑・迷惑駐車は誰もが知るところではないでしょうか。

市道廃止による影響について、データ解析もまだできていないにもかかわらず、一万人来場の対策が可能とする市の判断の根拠はどこにあるのでしょうか。

⑤最後に、あまりに市民不在な点です。

市長選挙では、間違いなくアリーナ建設は争点でした。積極的にアリーナを支持する投票者数の方が少数だったことは明らかです。

これまで述べてきたように、アリーナの姿が明らかになればなるほど、公立でつくる必要はないとの声が返ってきます。

これまで市は、建設是非を問うパブリックコメントや幅広いアンケートなど行ってきませんでした。多くの疑問に答える機会もつくってこなかったわけです。暗闇の中で意思決定を迫れないという意見もありましたが、であればなおさら、意見が二分している今、事業化を急ぐのではなく、丁寧な合意形成を図るべきです。市民を分断するとして意見を聞くべきではないという声もありましたが、市民は説得される対象でしかないのでしょうか。

議会も市民の負託を受けて議論する場とは言え、住民自治を基本とする地方自治において、主権者たる市民を尊重し、その生の声を常に伺い、反映させる姿勢を失ってはなりません。

サッカースタジアムの議論が本格化すれば、市がどれほど負担しなければならないかも分からない状況です。多くの市民が望んでいない営利施設に、多額の市民の税金投入する本事業はいったん立ち止まるべきです。