議会質問・ニュース

【原稿】 2020年11月議会 陳情の討論 田中のぞみ
[ 12月16日 ]

12月15日に閉会した2020年11月定例岡山市議会で、陳情を不採択とした委員会報告に反対し、各陳情の採択を求めて、市議団を代表して田中のぞみ議員が討論を行いました。

採択を求めた陳情は次の通りです。

①陳情第11号 種苗法改正反対の意見書の提出について

②陳情第26号 種苗法改正に対し慎重な審議を求める意見書の提出について

③陳情第32号 新型コロナウイルス感染拡大に備え、緊急に少人数学級の実現を求めることについて

④陳情第34号 教育費の保護者負担軽減のため、給付型奨学金制度の拡充を求めることについて

⑤陳情第35号 法定どおりの正規教員を採用し、各校に適正に配置することを求めることについて

 

討論の全文をご紹介します。

【印刷用PDF】陳情討論 201215 田中のぞみ

 


日本共産党市議団の田中のぞみです。
市議団を代表して、陳情第11号、陳情第26号、陳情第32号、陳情第34号、陳情第35号について、委員会報告に反対の立場で討論します。

まず、陳情第11号「種苗法改正反対の意見書の提出について」と陳情第26号「種苗法改正に対し慎重な審議を求める意見書の提出について」です。
これらの陳情は、農家の自家増殖を原則禁止とする種苗法の改定について、それぞれ反対の意見書と、慎重な審議を求める意見書の提出を求めるものです。

改定種苗法は、今年3月の通常国会に提案されて以降、SNS等で全国的な議論となり、審議見送りでこの秋の臨時国会に持ち越されました。この間、10月までに全国76の地方議会から同様の意見書も出されています。しかし、11月11日に審議入りした同法案は、新型コロナウィルス第3波の襲来のさなか、衆参あわせてわずか10時間余り、参考人質疑を入れても15時間に満たない審議で、12月2日に成立してしまいました。とても慎重な審議が行われたとは言えません。
 付帯決議がつけられていますが、多くの国民の不安を払拭する具体的な中身は示されていません。

種苗法とは、農業の世界の特許制度のようなもので、種苗開発者の知的財産権を保護する法律です。今回の法改正では、登録品種について、これまで原則自由とされていた農家の自家増殖が許諾制となる点が大きなポイントです。

政府は、ブランド農産品の海外流出を防ぐためだと説明しますが、その狙いは、種苗開発者の権利を強化・拡大し、登録品種の種は全て農家に購入させる事によってビジネス対象とすることであり、そのために安価で優秀なタネを提供する公的種苗事業の縮小を図る事にあります。
以下、理由を述べます。

そもそも、農産品の海外流出は、生産を許諾制にして農家の自家増殖を禁止しても防ぐことはできません。「国内利用限定」を設定し持ち出し禁止の条件を付けても、たとえばブドウは枝1本あれば増殖でき、持ち出そうとする者があれば、農家にそれを防ぐ術はありません。昨今のイチゴの流出も合法的に持ち出された品種が、現地で無断増殖された事が分かっており、日本の農家の自家増殖とは関係がありません。
海外での無断増殖を防ぐには現地で品種登録するしかないわけです。それは、農林水産省が自らHPで、「海外において品種登録を行うことが唯一の対策です。」と積極的にアピールしている事実に裏付けされています。現行法でも自家増殖した種苗の譲渡は禁じられており、罰則もあるため、農家が故意に流出させているとは考えにくいにもかかわらず、農家の自家増殖を禁止してしまっては、自国の農家を苦しめることにしかならないのではないでしょうか。

 また政府は、登録品種は生産量全体のわずか1割程度で農家への影響は限定的と説明します。しかし、品種ごと地域ごとに見れば、例えば米であれば、登録品種の生産量は3割を超え、北海道、青森、新潟では9割前後、沖縄のサトウキビも9割が登録品種を栽培しています。そのうち何割が自家増殖しているか、自家増殖していても何割が既に許諾契約を結んでいるか、政府は把握できていません。
登録品種8、315品種のうち、現行法で規制があるのは3,021品種。今回の改正で、残りの5,294品種に新しく許諾が必要となります。そして政府は年間1000件以上の品種登録審査を推進するとしているので、多くの農家に影響が出る事は間違いありません。

 さらに政府は、種子開発は公的機関が担っている場合が多いから、許諾料は高額にならない、とも説明します。しかし、その政府自ら、2017年4月に種子法を廃止したわけです。それどころか同時に成立させた「農業競争力強化支援法」の第8条第4項で「公的機関が有する種苗生産に関する知見を民間事業者に提供すること」と規定しました。当時の国会審議の中で、この民間事業者には外資企業も含まれることが明らかになっています。
同年11月には事務次官通知で、種子法廃止後の都道府県の役割を指示しています。そこには今後の都道府県の役割として「民間事業者による種子生産への参入が進むまでの間、技術と知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担う」とあり、その役割が大きく変貌させられています。
さらに、同年12月の「知的財産戦略会議」では、「稲、麦の品種育成に対する民間参入が期待されるが、農家の自家増殖が障害となっている」とする資料を配付し、当時の知的財産課長が「自家増殖を認めると、果実などは1本苗があると永久に自分で増殖できビジネスの対象になりにくいので、自家増殖が認められている分野については民間の参入が非常に阻害される」とまで、発言しています。

つまり、「海外流出の防止が目的」とは、とってつけた理由であって、農家の自家採種を禁じることで、許諾料で稼ぐ民間事業者を支援し、種苗開発に投じる公的予算を削減したいという意図が透けて見えます。
それは、種子法が廃止されるさらに2年前の2015年に策定された「農林水産省知的財産戦略2020」において、「新品種について特許で権利化する動きを踏まえ」た、「種苗産業の競争力強化の推進」と、「年間一千件以上の品種登録審査の推進」、が繰り返し強調されていたことからも、その筋書きがはっきりわかります。
その筋書きに沿って、まず種子法を廃止して公的種苗事業の法的根拠をなくし、農業競争力強化支援法により品種の知見と技術を民間事業者に払い下げることを法定化したのです。次に、農家に自家増殖をされては民間事業者の参入が阻害されるので、今回、種苗法改定で、原則禁止にした、と言えるわけです。

既に世界の種子市場は巨大化、独占化が進んでおり、モンサントなどをはじめとする上位4社の市場占有率は農薬で8割、種子で6割を超えています。これらの企業は、農薬、化学肥料事業とセットでアグリビジネスを展開しており、遺伝子組み換え、ゲノム編集の種苗にも取り組んでいます。

しかし皆さん、
人類は有史以降、何百年何千年と、農民が種の選別を繰り返し、その土地その気候にあう多様で優良な種を定着させてきました。その長い営み、積み重ねを無視し、一部改良を加えて品種登録すれば一企業が独占できる。本当にそれでいいのか、日本の食と農業を売り渡すことにならないのか、という根本的な問題でもあります。
一方で、国連では「家族農業の10年」が提唱され、「農民の権利宣言」が決議されました。生活と生産が一体となっている小規模な家族農業が世界の食糧生産の8割を支えていると言われています。家族農業が、多面的な役割を果たしおり、変化にも強く、SDGsへのカギになるとも、言われています。改めて見直そうという新たな流れです。

昨今、地球上で自然災害が毎年頻発し、新型コロナウィルスの蔓延で各国が食料輸出を規制する中、いかに食糧自給率を高めるか、国の責任が問われています。登録品種とはいえ、農民から種取りの権利を奪い、バイオ化学企業を利する制度を推し進めることは、ただでさえ後継者不足に苦しむ自国の農家の自給力をも奪っていくことにつながります。
企業による種の支配を許さず、主要作物の種子は公的な供給体制を維持し、優良な種は地域の共有財産と位置付けて、農家や市民が自由に再生産でき、しっかり次世代に引き継ぐことこそ保障されなければなりません。法成立に屈することなく、地方から意見を上げることを求めて陳情の採択を求めます。


次に、教育環境の充実を求める陳情3件についてです。
新型コロナウィルス感染拡大による子ども達への影響は深刻です。
国立成育医療研究センターが今年3回行ったアンケート調査では、
5月の調査で「すぐにイライラしてしまう」32%、「最近、集中できない」35%、
10月の調査でも、何らかのストレス反応が見られたこどもが7割、勉強以外でスマホなどメディアを見る時間が今年1月と比べて増えた子どもが4割といった数字が出ています。

一斉休校の影響も心配です。
本来、人とのかかわりあいの中でこそ保障される成長・発達の場が奪われました。「公園で遊んだら、通報された」「友達と話しているだけで注意された」。確かにそういう時期がありました。学年の変わり目の一斉休校で、例えば、卒業生を送る、新入生を迎える経験をしないまま、最高学年となったことから、自覚の醸成が足りなかったかと思われる例、担任との信頼関係構築に時間を要している例も実感しました。部活やスポーツ、多くの行事や大会が中止され、自ら輝き成長するチャンスが奪われてしまったことも事実です。数年来の目標や楽しみが突如なくなってしまっても、それでも、子ども達は仕方ないと受け入れるしかありませんでした。

現在もワクチンができたとはいえ、まだ有効な治療薬はありません。人と人との接触が避けられるべきものとされる、給食は黙って前を向いて食べる、マスクで相手や先生の表情が分からない、こんな状況がいつまで続くのかは誰にもわかりません。一方で、この距離感が逆に安心するという子どもかいることも伺います。

まず、ひとりひとりの子どもの様子を察知し、心身のケアをしっかり行うことは、学びを保障する上での大前提です。今こそ「手厚い」教育へ「柔軟な」教育への転換が図られなければなりません。


陳情第32号「新型コロナウィルス感染拡大に備え、緊急に少人数学級の実現を求めることについて」は、20人程度の少人数学級実現を国に求めるとともに、市独自でも対策を取る事を求めています。

現行の40人学級は、学校での感染症対策や「新しい生活様式」に対して、だれが見ても明らかに重大な矛盾に直面しており、各界から少人数学級の実現を求める声が上がりました。萩生田文科相は、「令和の時代の新しい学校の姿として、少人数学級の実現に不退転の覚悟で臨む」旨を明言しており、当時の安倍首相も「検討したい」と答弁しています。

また、子ども・文教委員会では、この11月に、岡山市も指定都市市長会を通じて国に対し少人数学級実現の緊急要望を行ったと当局の説明がありました。20人と具体的な数字は上げていないというだけで、趣旨は本陳情と全く同じではないでしょうか。
この30年来変わらない40人学級制度については、特別支援学級の子どもを除いて40人学級にするため、一緒になる時間は、44人や45人学級になっている実態も早急に改善するよう指摘し、本陳情の採択を求めます。


次に、陳情第35号「法定どおりの正規教員を採用し、各校に適正に配置することを求めることについて」です。

子ども・文教委員会では、標準法による教職員定数は児童生徒数や学級数により変動するため、すべての教員を正規で配置することは難しい旨の説明がありました。しかし、岡山市の教員の非正規率は政令市20市の中で飛びぬけて高いという事を、これまで何度も指摘してきました。標準法の考え方は全国一律ですから、言い訳にはなりません。
特に、非正規の先生が学級担任を持っている数が尋常ではありません。昨年度の数字で、小学校が217学級13.8%,中学校が49学級7.9%です。国による財政措置はされているわけですから、計画的に正規教員の採用を進めることは当然かつ喫緊の課題です。不採択とされる理由が全く分かりません。


最後に、陳情第34号「教育費の保護者負担軽減のため、給付型奨学金制度の拡充を求めることについて」は、今年度より新設された岡山市給付型奨学金の条件である「市民税非課税世帯」の「高校生」という条件や、年間6万円という支給額について、拡充を求めるものです。

当初2200人程度の応募想定が、763人だったとのことで、現在2次募集中です。合わせて、コロナ禍の影響で減収した世帯にも間口を広げており、多くの方が利用できることを願っています。コロナの影響が長引く現在、大学生の中でも経済的理由で学業を続けられないかもしれないというケースが表面化しています。受験をあきらめるケースも出てくるかもしれません。学費も経費も高校生とは比べ物にならず深刻です。
家庭の事情に左右されることなく、学びたいと願う生徒が進学できる環境を支援することは政治の責務です。前身の貸付制度では大学生を対象にしており、利用実績もあったのに、高校生に限定された理由も納得はできません。

本制度は保育料無償化によって生じた約15億円が財源となりましたが、当該予算はそのうち1.3億円程度です。浮いた15億円の他の使い道には、山南学園建設5.1億円、小中学校長寿命化事業1.4億円、教育ICT環境整備1億円、学童クラブの市直轄への移行4700万円、南部適応指導教室整備事業1400万円等々が計上されており、保育無償化があろうがなかろうが既に計画済み、もしくは実行中の事業が多く含まれています。貴重な財源を、今必要としている子どもたち、だれ一人取り残さないために活用していただきたいと思います。
新しい事業だから拡充は不要、と切り捨てるのではなく、前向きに検討を続けることを強く要望しまして本陳情の採択を求めます。

以上、議員各位のご賛同を求めまして、討論とさせていただきます。