市議団事務局(東田) 16年02月10日
昨日、大森市長が来年度の岡山市国民健康保険(国保)の保険料を据え置く方針を表明したことを、昨日や今日の新聞、テレビなどがそれぞれ報じました。私はその中で、ある新聞の解説記事に違和感を覚えました。
「国保会計は本来、保険料で賄うのが基本であり、ほかの施策を犠牲にして一般会計から多額の法定外繰り入れを続けるのは好ましいことではない」との一文があったのです。
これには制度への理解の不十分さや自治体行政への誤認識があるのではないかと思ったのです。
国保には、他の健康保険制度と異なる3つの構造的問題があるとされています。
1.保険料負担が重い
例えば給与所得者の多くが加入している健康保険(健保)は、保険料を事業主と被保険者が折半して負担しているのに対し、国保は全額を被保険者本人が負担しています。「会社を退職して健保から国保になったら、保険料が2倍近くに跳ね上がった」「国保に入ると保険料が上がってしまうので、任意継続をすることにした」などの話を聞くことは珍しくありません。それほど、国保の保険料は、金額としても大きいのです。
2.被保険者の所得水準が低い
保険料が高い一方で、国保の被保険者は、退職した人、年金生活の人、パートやアルバイトなど非正規で働いている人など、相対的に低収入の人が多いことが特徴です。
つまり、相対的に低所得の人が高い保険料負担を求められる制度なのです。
3.医療費水準が高い
加入者の特徴からは、医療費が大きくなりがちな傾向もうかがえます。現役世代が中心の健康保険に比べて、高齢世代が多いのですから。
みなさんは岡山市で国保に加入している方がどれぐらいかご存知ですか?
約71万人・31万世帯の岡山市民のうち、約15万人・10万世帯が国保の加入者です。
人口で2割、世帯で3分の1近くが加入する公的医療保険です。
また、岡山市の財政規模は、今年度の当初予算で約2850億円。そのうち国保会計への法定外繰り入れは28.5億円です。
相当数の岡山市民が加入している公的医療保険制度に対して、予算のうちの1%を投入することは、不適切なことなのでしょうか?
また、この制度を維持することは、他の事業より優先度を低くすべき事柄なのでしょうか?
ちなみに地方自治法には「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」(第一条の二)と書かれています。 岡山市がやるべきことの第一は市民の福祉増進だという意味のことが書いてあるのです。
さらに言えば、「他の施策を犠牲にして」という見方自体が、市民生活や地域のあらゆる分野を対象とする自治体行政を見る視点としてふわさしいのか自体、大いに疑問です。
これらのことは、自治体はよくわかっていますから、「法定内繰り入れ」とともに「法定外繰り入れ」を行って、制度の維持を図っているのです。全国で、「法定外繰り入れ」を行っていない自治体はほとんどありません。
国保制度を考えるうえで欠かせないポイントの1つは、国の責任です。国は以前は公的負担の2分の1を担っていましたが。現在では大きく後退しています。
1947年に施行された日本国憲法のもとで48年に国民健康保険法は抜本改正されました。その中には支払い能力の無い人に対して保険料を減免する規定が盛り込まれており、先にも述べた国保の構造的な問題を国は十分に認識していました。だからこそ多額の国庫負担が設定されていたのです。この考えは59年の新国保法にも基本的には引き継がれました。
しかし、その後、国が国庫負担の割合をどんどん切り下げていったのです。国が減らしていった分をそのままにすれば、財源不足か保険料高騰かしか道はなく、どちらにせよ制度が破たんしてしまいます。それを回避しようと法定外繰り入れが拡大していった歴史的な経過もあります。
岡山市では、国保加入者のうちおよそ2割強が保険料を滞納しているのが現状です。もちろん、法律や条例に基づいて国保会計を維持するのに必要だとして算出された保険料額ですから、払うべきなのは当然です。けれども、上にも書いたように、低所得なのに高い保険料負担を求められて、払いたくても払えない状況にある人が少なくないのです。
岡山市は、単に繰り入れを行うだけでなく、健診や後発医薬品の利用促進などで医療費の伸びをできるだけ抑える努力、納付相談やコンビニ納付などの収納率向上の努力などを地道に重ねています。
その中で、ここ数年は医療費の伸びが予測を下回り、新たな国の財政支援も始まったことなどから、今回、保険料の据え置きを決めたのです。
メディアの方々には、国保制度を論じるのであれば、制度の歴史や性格、地方自治体の本務などをよく理解した上で、加入者や医療機関にも取材するなどして、重層的で多面的な記事を書いていただきたいものだと思いました。